「寂聴訳 源氏物語 巻四」(紫式部/瀬戸内寂聴訳)

男の夢をよく知ってらっしゃる

「寂聴訳 源氏物語 巻四」
(紫式部/瀬戸内寂聴訳)講談社文庫

源氏はついに大邸宅・六条院を
完成させる。
花散里に預けられた
源氏の息子・夕霧は
学問に励む一方、
雲居雁への想いを募らせていく。
源氏のかつての恋人・夕顔には
頭中将との間にできた
娘・玉鬘がいた。
十七年ぶりに上京した彼女は…。

瀬戸内源氏第四巻は、
「薄雲」から「胡蝶」までの六帖を
収録しています。
この巻での筋書きの中心は、
一つは、ここまで源氏の周辺にいた
重要人物たち(太政大臣、藤壺の宮)が
相次いで亡くなり、それとともに
夕霧や雲居雁、玉鬘など
セカンドジェネレーションが
台頭してきたこと、
もうひとつは、源氏の大邸宅であり
壮大なハレムである
六条院の完成とそこでの生活、
この二つでしょう。
注目したいのはやはり後者です。

広さ約四町。
四町といっても現代の我々には
ピンとこない面積です。
調べてみると一町=9917.36平米。
つまり約一万平方メートル、
100m×100mなのです。
そうなると四町なら
200m×200mということになります。
200m四方の広大な土地に
大邸宅を構え、
そこに妻と愛人数名を囲み、
自分と女たちの世話をする人間も
すべて住まわせる、
いわゆるハレムなのです。
それも美女ばかりという
陳腐なものではありません。
四町を4つに区切り、
それぞれで四季の変化を
楽しめるようにしてあるのです。

まず、南東の町には
正妻である絶世の美女・紫の上と
自分が住み、この世の春を楽しむ。
完璧な美女は
一人いればいいのでしょう。
しかも紫の上は、幼い頃から源氏が
自分好みに育て上げた
相性度100%の若妻ですから
申し分ないはずです。

次に、南西の町には秋好中宮。
落ち着いた女性です。
庭園も秋に最も映えるような
造りとしてあります。
春もいいが秋もいい。
源氏ももう三十路を超えましたので、
いつまでも春一色というわけには
いかないのでしょう。

そして気分が落ち込んだときには
北東の町に住まわせている
花散里のところへいって
愚痴を聞いてもらう。
花散里はそれほど美人ではないものの、
男が安心して身をまかせることのできる
お母さんタイプと考えられます。
そこには息子夕霧もいるので、
家庭的な団らんを
楽しむことができるのです。

さらに北西の町には
才女・明石の上を配置。
インテリジェンスな女性も
必要なのです。
源氏はもともと知性派ですから、
明石の上は
必要不可欠だったのでしょう。

いやあ、これぞ究極の男のロマンです。
現代ではアラブの王様でなければ
実現不可能です。
しかし、ここまで男心を理解している
紫式部は本当に女性だったのか。
千年後の世の男どもの心をも
鷲掴みにして離さない女性、紫式部。
やはり恐るべし。

(2020.6.27)

shell_ghostcageによるPixabayからの画像

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